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体験的アドバイス

若いアクチュアリーへ③ ~ 志を高く持とう

志の高さに関するエピソードには、有名な起業家のものが多いですね。
松下幸之助さん、本田宗一郎さん、稲盛和夫さんなどの、歴史に残るような偉大な起業家に関する本を読むといろんな逸話が載っています。
また、現役の経営者の方でも、例えばソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井正さんなどの言動からは、いつまでも変わらない志の高さが伝わってきます。

ここで、私が特に好きな本田宗一郎さんのエピソードを紹介してみます。
これは事業再生のプロである越純一郎さんが、ある講演の場で述べておられたエピソードです。
なお、越さんはNHKでドラマ化された「ハゲタカ」という小説の登場人物のモデルとしても有名な方です。

志というと上で挙げたような「起業家に必要なもの」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
企業や組織で働く人であっても志を持つことが大事です。
プロジェクトXを見ると、高い志をもって素晴らしい仕事をした人のエピソードがいろいろと紹介されています。

もっと普通のサラリーマンであっても、「顧客に提供する価値を上げたい」・「周囲の人の役に立つ仕事をしたい」・「会社に貢献するような仕事をしたい」・「自分の仕事の質を上げたい」などの「思いや志」あるいは「向上心や意欲」を持って仕事をしている人はたくさんいます。
私が出会った人の中から何人か例を挙げてみましょう。

①人事部に異動になった時の人事企画課の筆頭役付の方は、当時の第一生命が進めていた人事制度改革の中心を担っていました。能力実績主義の推進、人事評定制度の見直し、昇進昇格に関する運用の見直し、キープヤングの推進などを彼が主導していたので、私は畏敬の念をもって彼の仕事ぶりを見ていました。
しかし、ある時彼と話した時に「人事に来てから、いろんな難しいテーマを与えられ苦しんだ。最初の頃は帰宅してから毎日、人事関連の本を1冊読むようにして何とか乗り越えた」と聞きました。
「何としても課題を達成する、仕事と自分の質を高める」という強い思いと志を体現している方だと尊敬していました。

②企業年金数理室の部下の中に、当時の数理室のシステムに強い問題意識を持っている役付がいました。
彼はシミュレーション機能の重要性を早くから指摘して、年金数理システムもキャッシュフロー型に作り直した方が良いと主張していました。
徐々に周囲を巻き込み、最終的には数理室長だった私も同意し新しい年金数理システムを開発しました。
彼の思いと熱意が私と周囲を動かしたと言えます。

③これも企業年金数理室長の時の経験です。
ある一般職の女性が入社してきました。以前から数理室には一般職採用の中でも最優秀な人を配置してもらっていましたが、彼女の能力と意欲の高さは特別でした。
当時の数理室で最も難易度が高いと思われた代行返上チームに配置したところ、複雑な代行返上の仕組みをたちまち吸収し信頼できる仕事ぶりを見せていました。当時の代行返上チームのリーダーは「彼女が入ってくれて本当に良かった。しかも、彼女は自発的に基金の規約を読み込んでその内容を把握している。すごい・・」と感嘆していました。
彼女は大いに活躍してくれましたし、将来も期待していたのですが、(難関なことで知られる)航空管制官の試験に合格したということで、残念ながら退職してしまいました。華麗なる転身という感じですね。

④野村證券での部下の一人に信託銀行からの転職者がいました。
彼は非常に向上心が強く、公的年金向けのコンサルティングの中心として活躍する一方で、仕事後の夜の時間には一橋大学大学院の修士課程に通い、自分のレベルアップに努めていました。
要求水準の高い公的年金向けコンサルで力量を発揮してくれていたのですが、「コンサルタントでは自分の成長に限界がある」という理由から、他の資産運用会社に転職していきました。

⑤第一生命の経営企画部門にいたときの上司(部長)は、1996年の保険業法改正を業界側の立場でリードしたことで有名な方でした。彼に仕えるようになって、私もその能力の高さや頭の良さに感嘆していました。しかし、彼は能力が高いだけではなく、たいへんな勉強家でもあることが、徐々に分かってきました。
彼は部長になる前に、調査部でいわゆるMOF担を務めていた時期があり、その当時は、毎夜、遅くまで酒席が続いたそうです。それでも、どんなに遅くなっても彼は「帰宅してから水風呂に入り、酔いを醒ましてから本を読む」という習慣を続けていたとのことです。そのような努力があったからこそ業法改正をリードするという歴史的な仕事をできたのだろうと納得したものです。

私自身についても、志を持って仕事をしたと自分では思っているエピソードはありますが、何だか自慢話のようになるのでここには書きません。

一方で、せっかく能力が高いのに「何でそんなに志が低いのだ」と思う人にもたくさん出会いました。
むしろ、こういう人の方が多いのではと感じています。

「とりあえず今までと同じようにやればよい」・「まあ適当に対応してこの場をしのげれば良い」・「難しい仕事にはなるべくかかわらない方が良い」・「自分の手に負えそうもない仕事からは逃げるのが肝心」・「誰かが何とかしてくれるだろう」とかで、まったく志とは無縁の仕事態度の人もたくさんいます。

こういう人と一緒になると「それで仕事から充実感が得られるのか」・「それでプライドは保てるのか」・「それで恥ずかしくないのか」などの感想が浮かんできて、不思議に感じたものです。

いわゆる前例踏襲型のお役所仕事というのは志のない仕事の典型ですが、中には、そういう仕事であっても、少しでも仕組みを改善するとか、早く仕上げるための工夫をする人はいるものです。
そういうのも立派な志だと思います。

仕事を進める上では「物事に期待せず仕事の質を高める」という心構えが大事だと考えています。
これは私の好きな作家である池波正太郎さんが「日曜日の万年筆」というエッセイ集の中で書いていた言葉です。

そのような意識で日々を送っている人と面接すると、その姿勢が伝わってきます。
面接で人を評価する際に「意欲や向上心の高さ」は欠かせません。
いくら面接の場で「私は向上心が高い」といっても通用しませんし信用できません。
私は、そういうことを言う人には「過去に努力して何かを成し遂げたことがあれば、話してください」と質問するようにしていました。

日ごろから何らかの志を持っている人からは、「意欲や向上心の高さ」が伝わってきますし、具体的なエピソードも確認できることが多いですね。
そういう人は魅力的な人材だと評価します。

こういう姿勢がサラリーマンであっても大事だと信じます。
周囲との足の引っ張り合いや社内政治のような行動をする人も多いですが、志を高く持てば、そんなことはしづらいですね。

私たちの人生は一種の長距離走だと言えます。
日々を送る上で何よりも大事なことは、「昨日の自分を少しでも乗り越える」・「自分の質を昨日より少しでも高める」という姿勢を持ち続けることだと思います。

志を高く持とう。これが若いアクチュアリーへの体験的アドバイスの三つ目です。