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体験的アドバイス

若いアクチュアリーへ② ~ 人の間で揉まれることも大事

就職や転職のための面接では、スキルの評価だけではなく人間性についても評価を行います。

私が第一生命の人事部に在籍していた頃は、採用のシーズンになると人事部の役付き以上のメンバーはほぼ全員が面接官を務めました。
その結果、私も人事部に所属していた5年間で1,500人以上の採用面接を行ったと思います(対象は数理人材に限りません。一般の文系および理系の受験者が対象です)。
人事部を出た後も、面接官としてのスキルと経験があるため、採用シーズンには人事から依頼されて面接官を務めることがありました。

また、第一生命の企業年金数理室長を務めていた間は、アクチュアリー採用の候補者を対象にした面接を行いました。
さらに野村證券に転職してからも中途採用を行う際は、必ず面接官として候補者に会いました。

採用面接にも技法があります。
第一生命の人事部に異動になった際に、私は「面接官養成研修」という社外研修を受けました。
また、人事部の先輩から直接に採用面接の指導を受けたり、先輩の面接に立ち会って技法を学ぶなどの訓練を受けました。
そのため、そのような経験のない人よりも、「面接を通じて人を見抜くスキル」は持っていると自負しています。

例えば、候補者の中にはよく喋る人もいれば寡黙な人もいます。
よく喋る方が評価されやすいと誤解している人もいるようですが、単に表面的に「よく喋る」だけではまったく評価しません。
あくまで話す内容の質を評価します。

面接で一番大事なことは、候補者と面接官とのやり取りの中で「その人の内面を浮かび上がらせる」ことです。
いろんな質問を候補者に投げかけ、それらへの回答に対し、さらに深堀りするような質問をします。
「具体的には?」、「例を挙げてください」、「もっと詳しく説明してください」、「どのように考えますか?」、「それはなぜですか?」などの、広がりのある質問をして候補者を評価します。

さて、アクチュアリーの人たちにとって重要なのは、上の三つのポイントのうち②と③の部分です。
アクチュアリー試験に合格し、数理部門で一定の実務経験を積んでいる人であれば、①の「仕事ができるかどうか」については一定の評価を得られるでしょう。

一般的に言って、大学で数学科を専攻した人は、(私も含めて)対人スキルを磨く機会が十分でなかった人が少なくないように思います。
人間性を磨き、対人面での対応能力を高めるためには「多くの人の間で揉まれる」という経験が不可欠です。
学生時代に多様な人たちと接する経験を通じて、対人能力が磨かれます。
しかし、アクチュアリー候補者の中には、そうした経験が十分でないのではないかと感じさせる人もいます。
数学に多くの時間を費やしてきているはずなので、当然かもしれませんね。
また、入社後も主計部や年金数理部門などの「数理人材に囲まれた組織」で過ごしていると、対人面での訓練をする機会がなかなか得られません。

その結果、数理部門の人材の中には、対人面で不器用だったり、社会人としての成熟度が十分でなかったりする印象を与える人が少なからずいます。

あるいは、数理人材の中には、非常にアロガント(横柄)な態度を取る人や、極端な主張を繰り返して周囲から敬遠される人もいます。
その背景には、自分の専門スキルへの過信や、多様な人たちと協働する経験の不足があるのかもしれません。

こういう人は仮に転職しても、うまくは行きません。
人材に窮している組織の場合は、目をつぶって採用するということもあるかもしれませんが、転職後にトラブルを起こすことになります。
高い評価も得られないので、本人も不満が溜まります。

そのためには、最初は数理部門で仕事の基礎を身に着けるにしても、その後はなるべく早く「(一度は)数理部門の外に出る」ことが望ましいと思います。
人事異動に関して転出の希望を出し、どこでもよいから数理とは違う仕事をし、数理人材とは違う人たちと一緒に仕事をすることが、対人スキルの強化には効果的です。
重要なのは、数理部門の外に出ること自体ではなく、自分とは異なる価値観や仕事の進め方をする人たちと一緒に仕事をし、その中で自分自身を成長させることです。
数理部門への志向が強い人は、その後に数理に戻ればよいと思います(出戻りですね)。

個人保険数理部門と年金数理部門を比較すると、個人保険数理部門の人の方が「外に出る」必要性は高いと考えます。
年金数理部門の場合は、顧客折衝も経験することになりますし、そのプロセスでは営業部門との関係も生じるはずです。
人格的に問題のありそうな営業人材と折衝をすることも、数理人材にとっては(その時点では不愉快かもしれませんが)プラスの経験になります。
主計部などの個人保険数理部門では、そういう経験は殆ど得られませんね。

幸か不幸か私の場合は、入社は厚生年金基金課の数理係でした。
当然ながら課の中には顧客担当の営業人材がいましたし、なかには支社や営業部でトラブルを起こしたという噂の人もいました。
大学を出たばかりで対人面が未熟だった私にとっては、そのような人たちと一緒に仕事をすることは、不愉快なことや対応に苦慮するようなこともありましたが、今から考えると良い経験を積むことができたと感じています。

私は入社して5年目に主計部に異動になり、積立金(責任準備金、配当準備金、支払備金)を担当することになりました。
数理的な面での厳密さは年金数理部門よりもはるかに厳しいので、アクチュアリーとしてのスキルを磨くためにはプラスになりました。
しかし、主計部に異動になってから数年で私は部外への異動を希望するようになりました。
数理人材に囲まれた中で仕事をすることに耐えられなくなったのです。

結局、主計部には4年在籍し、(思いがけないことに)人事部に異動になりました。
人事部には(当時は)社内でも最優秀と言われている人材が集まっており、そのような人たちの中でほとんど知識も経験もない人事企画の仕事をする羽目になりました。
最初は絶望的なほどに仕事や周囲との関係に苦しみましたが、今になって振り返ると、あの時の経験が自分を作ってくれたと思っています。

試験に合格し数理の仕事の基本を身に着けたならば、なるべく早めに数理部門の外に出て、多様な人の間で揉まれてみましょう。
これが、若いアクチュアリーに対する、私の体験的アドバイスの二つ目です。

なお、人によっては異動が難しいこともあるかもしれません。
その場合でも、会社以外の場などで、自分なりに「多様な人の間で揉まれる」機会を作ることが望ましいと考えます。

(補足)
偉大な業績を挙げた数学者の中には、一般社会の常識や価値観とは異なる独自の行動や言動をする人がいます。例えば、「ポアンカレ予想」を解決したペレルマンや、多変数解析関数論で大きな業績を挙げた岡潔さんなどが知られています。
数学の研究者であれば、独自の価値観や行動様式があっても、その研究業績によって高く評価されることがあります。
しかし、会社組織で仕事をする場合には、それだけでは通用しません。周囲の人たちと協力し、組織の中で成果を出す能力も求められます。
「数学者と会社員では求められるスキルが違うのだ」と認識することが大事だと考えます。