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年金ガバナンス② ~ 年金ガバナンスの定義

前回の記事で、ガバナンスの本来の意味を、以下のようにご説明しました。
・「ガバナンス」という言葉は、元々はラテン語の「船の舵を取る」から来ている。
・ただし、似たような言葉である「ガバメント」が「王権や政治などが決定・命令する上意下達的・他律的なシステム」を指すのに対して、「ガバナンス」は「関係者が参加して色々と協議をし、自律的な合意形成を行っていくシステム」という意味合いがある。

この「ガバナンスの本来の意味」を踏まえると、「年金ガバナンス」の最広義の意味は「年金制度の舵取りについて、様々な関係者(年金基金、加入者・受給者、事業主、監督当局など)で色々と協議しながら合意形成を行っていくシステム」となります。

しかし、実際には年金ガバナンスという用語は、広義で用いられる場合と狭義で用いられる場合があります。

(出所)OECD Secretariat [2002] ”GUIDELINES FOR PENSION FUND GOVERNANCE”CAPSA[2016] ”Guideline No.4: Pension Plan Governance Guideline”厚生労働省資料より作成

上の表は「年金ガバナンス」に関する定義例をまとめたものです。
OECD の定義が最も広義となっていることがわかります。

それに対し、CAPSA(カナダ年金監督局協会)の定義は年金制度管理者の責任・役割に焦点を当てた狭義な表現となっています。
CAPSAの「年金制度のガバナンスに関するガイドライン」の本文も、制度管理者に望まれる行動を列挙したもので構成されていますので、わが国に当てはめれば、言わば基金理事長の行動規範的な内容となっています。

また、厚生労働省資料では、企業年金のガバナンスを「制度を健全に運営するための体制の整備等」としていて、広範囲な意味合いを持たせた表現となっています。

上の表にあるように、OECDガイドラインでは「年金ガバナンスは公開会社におけるコーポレートガバナンスに相当するもの(“the mirror image of the corporate governance of a public limited company”)と表現しています。

実際、OECD のコーポレートガバナンス原則の9ページでは、その定義を
「コーポレートガバナンスは、会社経営陣、取締役会及び株主その他のステークホルダ ー間の一連の関係にかかわるものである。コーポレートガバナンスは、会社の目的を設定するための仕組みを提供する。また、目的達成の手段および会社業績のモニタリング手段を決めるための仕組みを提供する」
としていますので、上の表の年金ガバナンスの定義とほぼ同様の表現となっています。

ここまでご紹介した年金ガバナンスの定義や、前回にご紹介したガバナンスの元々の定義を踏まえると、
「年金ガバナンスとは、年金制度に関わる様々な利害関係者の立場を踏まえて、年金制度を、その目的達成に資するように、適切に運営するための仕組みとルール」
と定義するのが適切だと考えます。