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生保会社の上期決算状況② ~ 新型コロナにより基礎利益が大幅減少

今回は、主な生命保険会社の2022年4~9月期決算資料から、収益指標と業績指標の状況を確認してみます。

まずは、収益指標として基礎利益を見てみましょう。
なお、基礎利益とは、経常利益から売却損益等の臨時的損益を除いた、生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標のことです。
株価等の相場変動の影響を除外していることから、異なる決算年度間の比較が可能で、生命保険会社の収益力を見るためのものとして広く定着している指標です。

(出所)各社の公表資料より作成

上のグラフは、大手生保4社の2021年度と2022年度の上期の基礎利益を、並べて示しています。
赤が基礎利益合計、青が基礎利益の内訳である保険関係益(危険差益と費差益の合計)です。

まず赤の基礎利益を見ると、2022年上期は明治安田を除いて2021年上期よりも減少していることがわかります。
また、青の保険関係益は、2022年上期は全社で2021年上期よりも大幅に減少していることがわかります。

保険関係益が減少したのは、「新型コロナウイルス感染症関連の保険金等の支払」が急増したことによるものです。

今年に入ってから新型コロナの感染者が急増し、夏場にはピークを迎えました。
それに伴い、生保各社による入院給付金や死亡保険金の支払いが爆発的に増加しています。

しかも、実際に入院していなくとも、「新型コロナに感染したと診断され、宿泊施設または自宅にて医師等の管理下で療養をした場合」は、みなし入院として入院給付金等の支払いを行ってきました。

例えば、日本生命の場合、2022年4-9月の新型コロナ関連の入院給付金支払額は約845.8億円(前年上期は58.0億円)と、前年の上期の15倍近くに増加しています。
そのうち、みなし入院が804.6億円(前年上期は43.4億円)と、全体の9割以上を占めていまず。

このような状況は他の生保会社も同様であり、そのために保険関係益(危険差益)が激減する決算結果となりました。
なお、9/26以降はみなし入院の扱いを変更し、「重症化リスクが高い人」だけを対象とすることになりました。
そのため下期の危険差益は改善する可能性が高いと思われます。

次に基礎利益の構成要素である利差益は、グラフには示していませんが、各社とも増加しています。
利差益が増加した要因は、円安による外国公社債クーポン収入の増加、国内株式の配当の増加等です。
明治安田生命の基礎利益が前年上期よりも増加したのは、危険差益の減少よりも利差益増加の方が大きかったためです。

次に新契約の状況をみてみましょう。

(出所)各社の公表資料より作成

上のグラフは、大手生保4社の個人保険・個人年金合計の新契約年換算保険料の実績(金額、対前年度増加率)を示したものです。
新契約年換算保険料を2021年度上半期と比較すると、日本・第一は減少、明治安田・住友は増加していることが分かります。

このように対照的な結果となった理由は、外貨建て一時払い商品の新契約の違いです。
明治安田と住友は「外貨建て一時払い商品」の販売が好調でした。
米国金利の上昇により商品性の魅力が増して、販売増加につながった模様です。

一方で、日本生命・第一生命の場合は、外貨建て一時払い商品はグループ会社で供給しているために、本体の新契約業績は伸び悩んだと言えます。
日本生命グループでは大樹生命が外貨建て一時払い商品を提供しています。
また、第一生命グループでは、第一フロンティア生命が供給しています。
なお、大樹生命や第一フロンティア生命の新契約業績は、2021年上期よりも大幅に改善しています。

明治安田や住友の実績は一見好調に見えますが、外貨建ての貯蓄性商品によるものです。
死亡保障や医療保障のような、(収益性の高い)保障性商品の販売は伸びていません。
実際、上のグラフでも第三分野商品(医療保険など)の新契約は前年よりも低下、もしくはほぼ横ばいの状況です。

少子高齢化により、わが国での生命保険に対する需要は構造的に減少しています。
このような環境下で、保障性商品の販売をどのように増加させるかが、生保会社にとっての引き続きの課題だと考えます。