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超長期資金はもっとリスクがとれる ~ CPPIB (カナダ公的年金)の例

先日も書いたように、私は「GPIFはもっとリスクをとっても良いのではないか?」と考えています。
その理由は、GPIFが運用している資金は、超長期運用が可能であり短期的に大きなマイナスが発生しても問題がないからです。

参考になる事例として、カナダの公的年金資金を運用しているCPPIB をご紹介してみたいと思います。
なお、現在の組織名は CPP Investments に変わっていますが、ここでは多くの人になじみがあると思われるCPPIBをそのまま使います。

カナダの公的年金はわが国と同じように二階建てで、最低所得保障を目的とするOAS(1 階部分)と報酬比例制度であるCPP(2 階部分)から成っています。
1 階部分のOAS は税を財源とし、2 階部分のCPP は保険料を財源としています。

CPPIB(Canada Pension Plan Investment Board)はCPP の積立金運用を行う組織であり、1997 年に設立されました。

CPPIBの使命(マンデート)は法律で定められています。
2022年ののannual report からマンデートに関する説明を引用してみましょう。

CPP Investments is governed by an Act of Parliament, the Canada Pension Plan Investment Board Act (CPPIB Act). Under the CPPIB Act, CPP Investments has the objective to “invest its assets with a view to achieving a maximum rate of return, without undue risk of loss, having regard to the factors that may affect the funding of the Canada Pension Plan.” All amounts transferred to CPP Investments by the CPP are invested in the best interests of CPP contributors and beneficiaries for current and future generations.

翻訳すると、以下のようになります。

「CPPインベストメンツは、議会法であるカナダ年金投資委員会法(CPPIB法)により統治されている。
CPPIB法のもと、CPPインベストメンツは、”カナダ年金の積立に影響を与えうる要因を考慮し、過度の損失リスクを伴わずに、最大の収益率を達成するように資産運用を行う “という目的をもっている。
CPPからCPPインベストメントに移管された金額はすべて、現在および将来の世代のCPP保険料の負担者および受益者の最善の利益のために投資される。」

上にあるように、CPPIBのリスク許容度に関しては、マンデートで”without undue risk of loss”(過度の損失リスクを伴わずに)と規定されています。

さて、ここで ”without undue risk of loss”とは、具体的にどの程度のリスクを言うのでしょうか?
とても曖昧な規定ですね。
私も長く疑問に思っていました。

数年前に、CPPIBで働いた経験がある年金コンサルタントにインタビューする機会があったので、この点についても聞いてみたことがあります。

彼によると
①特に具体的な基準はない。他の年金基金などと比較して”without undue risk of loss”であれば良い。
②実際にはCPPIBの理事会でリスクテイクの程度を議論して決める。
③議論の際にはシミュレーションなどを材料にして多面的に検討する。
④意見が分かれて結論が出ない場合は、最終的には投票(vote)で決める。
ということでした。

このような抽象的な規定ですので、理事会の判断が重要になります。
実際には、CPPIBでは公的年金資金の長期性を活かして、積極的にリスクをとっています。

CPPIBの基本ポートフォリオに相当するreference portfolio(参照ポートフォリオ)の、株式の比率は85%となっています(下図参照)。

(出所)CPPIB “2018 annual report”

また、株を多く保有する考え方についても、2018年のアニュアルレポートでは述べられています。
公的年金運用のリスク許容度を考えるうえで参考になると思いますので、以下にポイントをまとめてみます。

①カナダチーフアクチュアリーの予測によると、将来のCPP給付の65-70%は保険料で賄われる。
②つまり、運用収益の給付財源に占める割合は30-35%である。
言い換えれば. 保険料は運用収益のほぼ2倍の重要性を持つことになる。
③この点は、多くの事前積立型のDB年金とは大きく異なる。
DB年金の場合は、給付財源として運用収益に大きく依存しており、CPPIBよりもリスク回避的となる。また、投資損失に対してもCPPIBよりも敏感となる。
④これらを考慮するとCPPIBの場合は、真に長期的な投資視点を持つことが支持される。
⑤すなわち、長期的な視点に立つと、リスク性資産を持つことによる高いリターンが、短期的なボラティリティの影響を相殺する。

GPIFの場合は、運用収益の給付財源に占める割合はわずかに10%程度です。
CPPIBのような考え方に立てば、現行の株式比率である50%を見直すことは、十分に合理的ではないでしょうか?