年金資産運用に関係している人にとって「リスク管理」という用語は、魔術的な響きがあります。
「リスク管理が大事だ」と言われれば誰も反対できません。
また、「リスク管理を適切に行うことが、年金資産運用の成功のカギだ」という風に思っている人も多いようです。
しかし、私は「年金資産運用にリスク管理は本当に必要なのか?」と疑問に思っています。
これは、ある証券会社で年金コンサルタントの仕事をしていた約11年の間、ずっと感じていたことでもあります。
もちろん、「年金資産運用の際にリスクを気にしなくて良い」と思っている訳ではありません。
まったく逆です。
年金資産運用で最も重要なことは「リスク許容度の範囲内にリスクを収めること」だと考えています
私がリスク管理は不要ではと思うのは、いわゆるリスクのモニタリングのことです。
多くの年金基金は、毎月のボラティリティやトラッキングエラーをウオッチして、VaR(バリューアットリスク)などを把握していると思います。
なかには、日次でボラティリティをモニタリングしている基金もあります。
私が疑問なのは、「日次や月次でモニタリングしてどうするのか?」という点です。
ボラティリティが前月よりも大きくなったとか、小さくなったとかは、モニタリングをしていれば分かります。
今年のようにマーケットが荒れていれば、ボラティリティやVaRも大きくなっているはずです。
しかし、だからと言って翌月からポートフォリオを見直すわけではありません。
もちろん毎月、ポートフォリオを見直すことも可能ですが、長期運用が前提の年金資産運用の考え方にバッティングします。
アクティブファンドのマネジャーのような行動を、年金基金がすることはありません。
年金基金のポートフォリオは、原則として再計算サイクル(通常は5年)で見直すことが一般的です。
また、その前提となっている考え方は、「市場は短期的には変動するが、長期で見ればリターン・リスクは安定するものだ」というものです。
短期的な変動にいちいち対応することは、年金基金の運用では行わないのが普通です。
そのような枠組みで資産運用を行っている年金基金が、毎月のリスクの変化をモニタリングする意味は、本当にあるのでしょうか?
モニタリングを行うとすれば、それは何が目的なのでしょうか?
この点について、私はずっと疑問を持っていました。
私は過去に保険会社に勤めていましたので、保険会社のリスク管理はある程度理解しています。
また、銀行のリスク管理部門にヒアリングした経験もあります。
海外年金基金のリスク管理の取り組みも調べました。
次回からは、他の金融機関や海外年金基金の例などもご紹介しながら、年金基金のリスク管理の在り方について考えてみたいと思います。