先日投稿しましたが、生保会社が団体年金向け一般勘定商品の予定利率を引下げた背景には、2025年から導入予定の新ソルベンシー規制があります。
そして、現行規制と新規制の最も大きな違いは、負債の経済価値評価(時価評価)を行うことです。
今回は、負債時価評価の影響を、具体的に見てみようと思います。
負債の経済価値を算出する場合は、計算基礎率(割引率、死亡率、解約率、経費率等)は、評価時点の実態に基づき設定します。
団体年金一般勘定の負債計算では、割引率の影響が最も大きいと思われますので、以下では割引率に絞ってその影響を試算してみます。
例として「現時点で1,000億円の負債残高。今後10年に亘って、100億円+予定利息がキャッシュアウトされ10年後末には残高がゼロになる」というモデルケースを考えてみます。
まず、予定利率を1.25%とすると負債のキャッシュアウトは、以下の表のとおりになります。
現在は、「予定利率(1.25%)を用いてキャッシュフローの割引計算をした額の合計」が負債額となります。
現在の負債額を計算すると、以下の表のとおりになります。
黄色で塗りつぶした箇所が、現行ベースの負債額(責任準備金)を表しています。
次に新ソルベンシー規制下での負債計算をしてみましょう。
まずは、割引率を設定する必要があります。
割引率は評価時点のスポットレートを用いることになると思われます。
なお、スポットレートの説明は、日銀の資料によると以下の通りです。
①将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くときに用いるレートのことを「スポットレート」という。
②割引債のように、投資時点と回収時点のみに、キャッシュフローが発生するときの複利最終利回りとして定義される。
③このため、ゼロ・クーポン・レートとも呼ばれる
さて、2022年3月末の国債金利を用いてスポットレートを計算してみると、以下の表のとおりとなりました。
計算方法については上で引用した日銀資料を参照してください。
上の表の黄色部分がスポットレートです。
ご覧のようにすべての年限で予定利率の1.25%を下回っています。
このレートを用いて、先ほどのモデルケースにおける、負債の時価評価額を計算してみましょう。
オレンジ色の部分が経済価値ベースの負債となります。
現行よりも6%以上、負債額が増加していますね。
では、次に「予定利率を引下げたら、どうなるか?」を見てみましょう。
第一生命の例を参考にして、ここまで述べたモデルケースについて、予定利率を0.25%に変えてみます。
ご覧のように、時価評価した負債の増加幅は、予定利率が1.25%の場合よりも大幅に縮小しています。
経済価値評価により負債額が増加すると、「資産-負債」である剰余額(サープラス)は減少します。
サープラスはリスクへの備えとなるものです。
つまり、サープラスの減少は、「リスクへの備えとなる額が減少する」ことを意味します。
言い換えれば、サープラスの減少は保険会社の健全性が悪化することを意味します。
新ソルベンシー規制では、サープラスの減少によりESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)が、悪化することになります。
生保一般勘定の予定利率引下げの本当の理由は、ここにあると私は考えています。
新規制下でも高い健全性を維持するために、予定利率の引下げを行ったのだろうと思います。