今年の年頭に私は「2023年の予測 ~ 生保一般勘定はどうなるか?」と題した記事をこのHPに投稿し、予定利率引下げに関する予測をしました。
ポイントは以下の2点です。
①日本生命・第一生命以外の生保会社も一般勘定の予定利率引下げに踏み切るだろう。
その理由は「新ソルベンシー規制対応」である。
②引下げ後の予定利率の水準が第一生命と同じ0.25%まで下がる可能性はない。
その最大の理由は、「日銀の政策見直しによる長期金利水準の上昇」である。
その記事を書いた時点から10カ月が経過しましたが、今の時点では「予定利率引下げに関するアナウンス」はないですね。
顧客への影響が大きい生保一般勘定の場合、予定利率を引下げるためには、少なくとも実施の1年前には公表をすることが必要です。
さもないと、企業年金顧客が対応できないからです。
実際、第一生命は2021年10月からの予定利率引下げを2020年10月に公表しました。
また、日本生命は2023年4月からの予定利率引下げを2022年4月に発表しています。
今はもう11月ですが、まだ日生・第一以外の生保会社からの予定利率引下げの公表はありません。
したがって、少なくとも来年の11月までは予定利率の引下げはないだろうと予想されます。
それどころか一部の生保では現行の水準で受託を再開しているようです。
実際のところ、現時点では私も「第一・日本以外は予定利率引下げを見送る可能性が高いだろう」と考えています(予想を変更することになります。申し訳ありません)。
その理由は金利水準の上昇によるスポットレートの上昇です。
ここまで急激に上がるとは考えていませんでした。
1月の記事にも書きましたが、新ソルベンシー規制で必要となる「負債の経済価値計算」には、スポットレートを用います。
例えば、第一生命が予定利率引下げ(1.25%→0.25%)を公表した2020年10月時点のスポットレートを、国債金利を基に計算してみると下の表のようになります。
15年のスポットレートがほぼ引下げ後の予定利率の水準に相当します。
第一生命一般勘定の負債としてのデュレーションは公表されていませんが、仮に15年程度とすると「負債経済価値計算に用いる金利」に見合った水準まで予定利率を下げたことになります。
また、日本生命が予定利率引下げ(1.25%→0.5%)を公表した2022年4月のスポットレートは下表の通りです。
ご覧のように2022年4月1日時点の15年のスポットレートは約0.5%であり、日本生命一般勘定の引下げ後の予定利率とほぼ同水準となります。
では、次に足元のスポットレートの水準を確認してみましょう。
11月1日時点の国債金利を基にすると、15年のスポットレートは約1.4%と一般勘定の予定利率である1.25%をすでに超えています。
新ソルベンシー規制に対応するために負債の予定利率引下げが有効なのは、割引金利であるスポットレートが予定利率を下回っているため、負債の経済価値が膨らんでしまうからです(→詳しくはこちらの記事を参考にしてください)。
スポットレートが予定利率を上回っているのであれば、予定利率を引下げる必要性は大きく軽減するはずです。
今年になってから日銀の政策が2回、変更になりました。
それに伴い長期金利は上昇し、スポットレートも上昇しています。
2023年4月以降のスポットレートの推移
上のグラフの赤の線が15年のスポットレートの推移です。
4月初めは0.85%でしたが9月に1%を超え、足元では1.4%を超えています。
今後の金利の予想はできませんが、物価上昇が見込まれるなかでは、かつてのような超低金利に戻る可能性は低いでしょう。
このような状況下では生保一般勘定の予定利率引下げを顧客に納得してもらうのは、かなり難しいと思われます。
結局、日本・第一以外の生保は当面は現状維持を続けるだろうというのが、今の私の予想です。