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モデル就業規則の見直し ~ 退職金の自己都合と会社都合の差を廃止

厚生労働省がモデル就業規則を見直しました。
退職金について自己都合と会社都合の差をなくしています。

【見直し前の条文】

(退職金の支給)
第54条  勤続  年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続  年未満の者には退職金を支給しない。また、第67条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

【見直し後の条文】

(退職金の支給)
第54条  労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、第68条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

新旧の条文を比較すると「自己都合退職と会社都合退職の差が解消されている」ことがわかります。

前回の記事に書いたように、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では「三位一体の労働市場改革」が大きなテーマとされています。
また、改革の具体的な内容としては、以下の事項が挙げられていました。

●一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要

●内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務

●「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行う。

●客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作る。

●在職者への学び直し支援策について、5年以内を目途に、効果を検証しつつ、過半が個人経由での給付が可能となるよう、個人への直接支援を拡充する。

●職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、人材の配置・育成・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係などについて事例を整理する。年内に事例集を取りまとめる。

●失業給付制度において自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。

●自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う。

●求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制の整備等に取り組む。


モデル就業規則を作成・公表している厚生労働省が、骨太の方針決定を受けてさっそく動いたということですね。
「自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しを進める」という、厚労省の意思の表れだと捉えることができると思います。

そうは言っても、自己都合と会社都合の退職金に差をつけるのは、わが国では当然視されてきた慣行です。
そんなに簡単には変わらないだろうと思います。

しかし、モデル就業規則を参考にして自社の就業規則を作っている会社は、中小企業を中心としてきわめて多く存在しています。
「自己都合退職金と会社都合退職金に差をつける」という慣行も、徐々に変わっていくだろうと予想します。

また、「日本の生産性向上を実現するには、労働市場の流動化が極めて重要」だと、私も考えています。
その観点からは、厚生労働省の素早い動きは、大いに歓迎できるものだと思います。

次に注目されるのは、公務員の退職金に関する自己都合と会社都合の差の解消です。
公務員の方の場合、自己都合でも勤続1年以上であれば退職金は支給されます。
しかし、会社都合(定年・勧奨)に比べ、その額は低くなっています。

前回にご紹介した「三位一体の労働市場改革の指針」では、「まず隗より始めよの精神で、公務員が企業の労働市場改革をけん引する」という方針が盛り込まれています。また、岸田総理もその旨を明言しています。

公務員の方についても、わが国の労働市場流動化を率先するために、退職金や退職年金の自己都合と会社都合(定年・勧奨)との差を解消することが強く望まれると考えます。