以前にご紹介したOECD の「年金ガバナンスガイドライン」は、DB だけでなく DC にも適用されます。
つまり、DB であっても DC であっても、ガバナンスに関する基本的な要件は変わりません。
したがって、DCガバナンスにおいてもDBと同様に中核的な組織体としての「統治機関」を設けることが適切です。
具体的には、DB における「年金委員会」のような組織を DC であっても設けることが望まれます。
この委員会は、人事部門および資産運用に知見のある財務部門などと、組合代表者から構成されるのが適当だと考えられます。
なお、DC の場合は資産運用のリスクやコストが加入者に直接的に帰属するので、組合代表者または従業員代表の参加は必須です。
DC のガバナンス体制(例)
上の図は DC のガバナンス体制の例を示したものです。
統治機関としての DC 委員会が執行機関である「運営管理機関」を監督する体制となっています。
また、加入者への投資教育についても監督組織が責任を負うことになります。
年金ガバナンスにおける統治機関の責任
次に、上の表はOECD ガイドラインに基づいて、統治機関の責任をまとめたものです。
ご覧のようにDB よりももむしろ DC の方が、統治機関の責任範囲が広くなっています。
これは、Gordon Clark氏による「個人による自己ガバナンスの問題点を真剣に考えれば、事業主や年金制度の 統治主体が大きな責任に直面することは避けられないだろう」という指摘と整合的であると言えます。
以上がDCのガバナンス体制を整える上でのポイントですが、ここで最も重要なのは「経営者がDCガバナンスに積極的に関与する」ことだと考えます。
一般に企業の経営者はDCの制度導入までは関与しますが、一旦導入されてしまうと関心が低くなる傾向が強いです。
DCはDBのような企業にとっての財務リスクがありませんから、忙しい経営者が関心を持つインセンティブが生じにくい構造にあります。
そのため、DBについては、財務リスクの観点から大いに関心を持っていた経営者も、DCに移行したあとは関心を失いがちです。
実際、人事部でDCを担当している方から「自分は必死に頑張っているつもりだが、経営者が関心がないので人も予算も貰えない。担当者の頑張りだけでは限界がある」という声を聞いたことがあります。
しかし、DCのガバナンスは加入者の資産に影響を与えるという意味でDBよりも重要であり、また、その対応範囲もDBよりも広いです。
例えば、運用商品の評価や見直しのような重要な意思決定は、制度の実施主体である経営者の関与が不可欠だと考えます。
また、経営者が関与することで、DC担当者や関連部門の意識付けを図ることができます。
労働組合や加入者とのコミュニケーション、投資教育なども経営者がリーダーシップを発揮することで、より有効に機能することが期待されます。
確かにDCに関心を持つインセンティブは生じにくいかもしれませんが、だからこそ経営者の方々は意識してDCに関心を持つことが必要だと考えます。