今回からDCガバナンスについて考えてみたいと思います。
私は日本の企業年金ガバナンスの問題は、DBよりもDCの方がはるかに大きいと考えています。
最近でこそ「DCガバナンス」という用語も違和感なく用いられるようになってきましたが、3~4年前までのわが国では、DCガバナンスについての議論はほとんど行われていませんでした。
むしろ、「DCにはガバナンスという概念はない」、あるいは「DCにはガバナンスは不要」という認識が一般的だったと思います。
なぜそのような認識だったでしょうか?
それは「わが国では、年金ガバナンスという概念が、DBの財政運営や資産運用と関連づけられて議論されてきたからではないか」と考えます。
例えば、「総合型厚生年金基金の年金財政が悪化したのは、ガバナンスに問題があったから」だというような議論がされることがあります。
ここで「ガバナンスに問題があった」という場合、それは「掛金の引き上げを適切に行わなかった」とか「資産運用でリスクをとりすぎていた」ことを意味しています。
つまりDBの場合は、年金ガバナンスの主たる着眼点は「財政運営を適切に行う」ことと「資産運用を適切に行う」ことと言えます。
しかし、DCの場合は、年金財政運営という概念はそもそもありませんし、資産運用を行うのは個々の加入者です。
そのためDCについては、企業によるガバナンスは不要といった認識が広まったのだと思われます。
問題は「本当にそれでよいのか?」ということです。
本当にDCにガバナンスは不要なのでしょうか?
上表の上の欄に、PFA(企業年金連合会)が2021年に公表した「企業型DCガバナンスハンドブック」における年金ガバナンスの定義を書いてあります。
なお、この年金ガバナンスの定義は厚労省による定義と同じものです。
ここにあるように、企業年金のガバナンスとは「制度を健全に運営するための体制の整備等」と定義されますので、 当然ながらDBだけが対象ではありません。
DCにとっても必要な機能になります。
また、上表の下の欄には、OECDによる年金ガバナンスの定義を書いてあります。
OECDは「(年金)ガバナンスは、制度の目的を設定するための仕組みを提供する。また、目的達成の手段および実績のモニタリングの手段を提供する」と述べています。
すなわち、年金ガバナンスの役割は「制度目的の達成」だと言えます。
DBでもDCでも企業年金制度の目的は「従業員の老後資金の確保」です。
DCでは確かに財政運営や資産運用という機能は企業から切り離されますが、従業員の老後資金確保という制度目的まで無くなる訳ではありません。
それを達成するためには、DCであっても企業によるガバナンスが重要だと言えます。