わが国の DB 年金のガバナンスに関するルールは法令・通知等で規定されていて、各 DB 年金はそれらのルールを踏まえて、制度運営や資産運用に関する意思決定と執行を行っています。
そこで今回は、「現状のDBガバナンスに関するルールは適切か? あるいは十分なものか?」について考えてみようと思います。
最初に基金型DBを取り上げます。
上の図は基金型 DB における意思決定と執行の基本的な仕組みを表しています。
ポイントは以下の通りです。
①規約の変更等の重要事項は事業主と加入者から選出された代議員会が過半数で決定
②代議員から理事を選出
③規約変更等以外の基金の業務については、理事の過半数により決定し理事長が執行(積立金の管理運用業務は理事長の定めるところにより理事が執行可能)
④監事が業務を監査する。
⑤理事長等を補佐するために資産運用委員会を設置する。
また、下の表は「OECD の年金ガバナンスガイドラインで規定されている要件を、基金型 DB の仕組みがどの程度満たしているか」を整理したみたものです。
なお、下の表の「DBの現状」部分で、ガイドラインと記載しているのは「確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」のことです。
このように整理すると、「基金型 DB の仕組みは、概ね OECD ガイドラインの要件を満たしている」と言えそうです。
しかし、いくつかの点については課題が残っています。
まず、OECD ガイドライン第 1 項の「責任の識別」で主張されている「執行責任と監督責任」の分離について、執行責任は「理事会および理事長」と言えますが、監督責任の所在がはっきりしていません。
基金の監査は監事の役割ですが、監事が理事・理事長の任命や評価を行う訳ではありません。
代議員会については、「ガイドライン 3-(12)-①」において「代議員会は、理事が管理運用業務を適正に執行しているかどうかを確認しなければならない」と規定されていて、理事会および理事長の監督も代議員会の役割となっています。
しかし、理事長は代議員会の議長であり、また他の理事も代議員です。
つまり、理事長及び理事は「監督と執行を同時に担う」こととなっていますので、OECDガイドラインが想定しているような実効性ある監督が可能かどうかは甚だ疑問です。
また、第 2 項の「統治機関」については、「基金運営の最終的な責任を負う」機関であり基金型 DB では「理事会および理事長」がそれに相当します。
一方で、OECD ガイドラインの注釈では「戦略的意思決定を行うのが統治機関」とされています。
基金型DBでは、重要事項の決定は代議員会で行うこととされていますので、代議員会も統治機関の性格を有しているとも言えます。
しかし、代議員の法的責任は規定されておらず、責任を負うのはあくまで理事および理事長とされています。
ここまで述べたように、現行の基金型DBのガバナンス体制をOECDガイドラインに照らして評価すると、「監督と執行の分離が不明確」・「統治機関は代議員会なのかあるいは理事会なのかが不明確」という問題があるのでは、と考えています。