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LDIへの別の見方 ~ 英国のDBはかつてないほど良い状態である

英国では、トラス前首相が大規模減税を撤回し、短期間での首相退陣に追い込まれました。
年金危機に関する報道も、ほとんど見かけなくなりました。

この問題はすでに過去のことになりかけているようですが、英国のファイナンシャルタイムズが、10/20付けで、“A different perspective on LDI (LDIについての別の見方)”という記事を掲載しています。

副題として、
“UK defined benefit pension schemes have never been in better shape thanks in large part to the investment strategy.(英国のDB年金は、かつてないほど良い状態である。その要因の大部分は投資戦略である。)”
と、LDI戦略に問題があるかのような報道や味方に対して、皮肉ともとれるコメントをつけています。

この記事をざっと読んでみて、印象に残った点を紹介してみます。

この記事で強調しているのは、LDI戦略は負債に焦点を当てたアプローチだということです。
例えば、
“The objective of a defined benefit scheme is to secure members’ benefits. On this measure, such funds have never been in better shape.”
(確定給付型の年金制度の目的は、加入者の給付を確保すること的である。この点では、年金基金はかつてないほど健全な状態にある。)
と述べています。

また、LDIについて、以下のように解説しています。
“In its essence, LDI is simply about putting the liabilities of a DB scheme — paying pensioners — at the heart of its investment strategy. This is a shift from traditional approaches that focus exclusively on the returns on the asset side of the balance sheet.”
(LDI の本質は、DB スキームの負債-年金受給者への支払い-を投資戦略の中心に据えるということである。これは、バランスシートの資産サイドのリターンにのみ焦点を当てた、従来のアプローチからの転換である。)

多くの報道が「金利上昇によりスワップで損失が発生した」ことを問題にしていましたが、これは上の記事で “traditional approaches” と表現している見方に基づくものです。

重要なことは「債務額も減少しているので、(資産-負債)であるサープラスは健全だ」という点ですし、DB年金のような積立型の年金制度に詳しい人であれば、この認識は当たり前のことです。
しかし、「年金関係者以外に、このような見方はまだまだ共有されていない」ことが、今回の報道で分かったと思います。

また、今回の危機の主要因である「マージンコールへの現金拠出」の問題についても、記事では解説しています。

“Disposing of assets may take days (or weeks for the more illiquid). In contrast, collateral requirements, known as margin, on the hedges must be settled daily and mostly in cash. This is a side effect of regulations intended to bolster banks after the financial crisis. If margins could have been posted in a broad range of high-quality bonds, much of this problem would not have come to the fore. “
(資産の処分には数日(流動性の低いものでは数週間)かかることがある。一方、ヘッジに必要な証拠金と呼ばれる担保は、毎日、ほとんどが現金で決済されなければならない。これは、金融危機後に銀行を強化する目的で行われた規制の副作用である。もし、証拠金を幅広い優良債券で計上できていれば、この問題の多くは表面化しなかっただろう。)

結局、「今回の英国における年金危機は、LDI戦略の問題ではまったくない」ということが分かります。
デリバティブを使う際の流動性リスクの問題です。
また、そのリスクも上の記事によると、金融危機後に強化された規制の副作用という面もあるようです。

私は、「年金資産運用の出発点は、負債特性を把握すること」だと信じています。
日本でもALMという用語で、「資産負債をトータルでマネジメント」することの重要性は認識されています。
ALMをさらに推し進めて、時価ベースの資産・負債の変動をマネージするのが、LDIです。
今回の英国で起きた騒動により、LDIを否定するような見方が広まることは、何としても避けたいと希望しています。