日本の年金基金でLDI運用を実践している例は非常に少ないですね。
少ない理由として挙げられるのは以下の二つです。
①超低金利の継続
②企業年金財政の評価が「継続基準」で行われていること
LDI戦略というのは、「国債やスワップを使って、負債側のキャッシュフローを複製したポートフォリオを構築する」というものです。
こうしておけば、金利変動により(時価評価した)負債額が変動しても、資産額も同じように変動しますので、「資産-負債」である剰余や積立比率には影響しません。
この戦略を構築するためには超長期の債券を購入する必要がありますが、当然ながらコストがかかります。
低金利下では割高な債券を購入してしまうことになりますね。
LDIを実装するには、高金利下の方が有利だと言えます。
この点がわが国でLDI採用を少なくしている理由です。
いつになるか分かりませんが、わが国も高金利の時代を迎えれば、LDI戦略もしくは類似した戦略(超長期債がポートフォリオの大半を占めるなど)の採用が増えるだろうと考えています。
また、②の「継続基準の財政運営基準」の存在も、LDI導入を難しくしていると思います。
金利上昇により債券やスワップの時価額が減少しても、予定利率は固定されているので負債額は変動しません。
結果的に年金財政の悪化につながりますし、不足額の水準によっては掛金引上げにもつながりかねません。
このため、全面的なLDIの採用は難しくなります。
英米は年金財政運営基準も負債時価評価を採用していますので、わが国とは事情が大きく異なっています。
私が知っている限りでは、わが国の企業年金では、東京海上日動企業年金基金がLDI戦略を実践していると思います。
同基金は母体が損害保険会社であり「リスクを引き受けること」が本業です。
企業としてのリスク許容度は資本水準から規定されますので、引き受けることの可能なリスク量(リスク予算)にも上限があります。
東京海上日動は、「企業年金では過度なリスクをとらず本業でリスク予算を使う」という方針だと考えられますし、その方針は合理的だと言えます。
他にはほとんど例がないので、日本の年金関係者にとってはLDI戦略は、あまりなじみがありません。
私がLDI戦略の採用例で、もっとも分かりやすいと思うのは、フランスのFRR(退職年金準備基金)の例です。
次回には、FRRのLDI戦略をご紹介してみたいと思います。