先週も書きましたが、2022年に入ってからの海外の金利上昇はDB年金の財政改善につながっています。
7月には日経も報じています。記事を要約してみましょう。
①米国の企業年金による債券買いが増加する可能性がある。金利上昇により米国確定給付年金の債務時価評価額が下がり、14年ぶりに年金資産の積み立て不足が解消。株式などリスク資産による運用を増やす必要がなくなったためだ。
②マーサーの推定によると、S&P1500種株価指数構成企業の年金の積み立て比率は、5月末時点で102%と2007年12月以来の水準となった。
③積み立て不足解消の背景には債務評価に用いる割引率の上昇がある。
④多くの米国企業は、積み立て状況に応じて債券などの比率を高めるグライド・パス(一定のルールに基づいた運用計画)を描いている。債務に対して資産が少ない場合は、株式の比率を高く維持しつつ、目標に近づけば徐々にリスクの高い資産の比率を落とすことで着実な積み立て不足解消を目指す。
ここで報じられているように、金利上昇で米国DB年金の財政状況は改善しています。
少し別の情報を探してみたところ、米国のLGIM(リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント)も、毎月レポートを発行しています。
米国企業年金の積立比率の推定結果ですね。
このレポートによると、2022年9月末の積立比率は95.6%と前月末と変わらなかったとのことです。
株価の下落があったにもかかわらず、積立比率が維持されたのは、金利上昇が要因です。
また、2022年1月始の積立比率は92.6%ですから、9月までの間に3%(95.6-92.6)改善したことになります。
ここまでみたように、資産・負債を時価ベースで評価すると、金利上昇は年金財政の改善につながります。
わが国の年金関係者の間では、金利上昇を財政悪化要因あるいはリスク要因と捉えることが依然として主流ですが、負債時価評価の考え方を採用すると見え方がまったく違ってきます。
わが国の企業年金の財政運営上は、以下の三つの基準があります。
①年金財政運営基準における「継続基準」
②年金財政運営基準における「非継続基準」
③退職給付会計基準
上記のうち、②と③は負債の時価評価の考え方を採用しています。
そのため金利上昇は財政状態の改善につながります。
一方で、①の継続基準では、負債評価の際は予定利率を固定しています。
したがって、金利上昇は年金財政の悪化につながります。
継続基準と非継続基準で、まったく逆の見え方になります。
私は年金財政運営基準が継続基準を採用しているのは、適切だと考えています。
ゴーイングコンサーンである企業年金を、非継続基準だけで運営するのは無理があると考えます。
ただし、資産側と負債側の評価方法のバランスがとれていないことには、留意する必要があると思います。
なお、誤解のないように補足しますと、GPIFのように負債が存在しない制度の場合は、金利上昇はリスク要因になります。
つまり、年金財政運営やリスク管理のあり方は、制度の特性によって違ってくるということです。
(負債の存在している)企業年金が、GPIFの資産運用のあり方を参考にするのは適切ではありません。
もちろん、部分的に参考になる部分はあると思いますが、制度特性の違いを良く踏まえることが重要だと考えます。