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区分経理導入の効果② ~ ALM運用の推進

区分経理導入の効果の2つ目としては「負債特性を踏まえた運用(ALM運用)の推進」が挙げられます。

以前にご紹介したように、保険審議会答申では区分経理導入の目的として以下の4点が挙げられていました。
①保険会社における利益還元の衡平性、透明性の確保
②保険種類間の内部補助の遮断
③事業運営の効率化
④保険商品の特性に応じた資金の活用、また、商品設計や価格設定の面で各社の創意工夫を活かす余地の拡大

ALM運用の推進は上記の④として挙げられていますね。

さて、まずは直近の情報を確認してみましょう。
以下の図表は第一生命の団体年金区分と一般勘定合計のポートフォリオを比較したものです。
(なお、第一生命は団体年金区分の決算報告書をHP上で公開しています。)

一般勘定合計と団体年金区分のポートフォリオの比較(第一生命)

(注)上のグラフの団体年金区分は、「2021年10月に予定利率を引下げた商品(確定給付企業年金保険、厚生年金基金保険(Ⅱ)、新企業年金保険(Ⅱ))」を対象とした資産区分である。

上のグラフで一般勘定全体と団体年金区分を比較すると、いくつかの点で違いがあることがわかります。
ⓐ団体年金区分の方が確定利付資産(現金、公社債、貸付金、外国公社債)の割合が高い。
ⓑ国内株式は一般勘定全体の方が団体年金区分よりも多い。

日本生命や明治安田生命の団体年金区分の報告書は公開されてませんのでで、ここで紹介することはできません。
しかし、少なくとも昨年までは、上記の二つの特徴は日本生命・明治安田生命にも当てはまりました。

生保一般勘定で最も大きな資産区分は、個人保険を含む一般ファンドです。
個人保険は死差益が潤沢であるため、それをリスクバッファーとすることができます。
しかし、団体年金にはそのような財源はありません。
そのため、一般ファンドの方が、団体年金よりも大きなリスクテイクが可能になります。
一般勘定全体の方が、団体年金区分よりもリスク性資産の割合が多いのは、一般ファンドの全体に占める割合が団体年金よりも大きいためだと思われます。

区分経理実施後の資産区分ごとの運用を類型化すると、大きく
①バランス型運用
②キャッシュフローマッチング運用
③デュレーションマッチング運用
の三つに分かれると思います。

個人保険が大部分を占める一般ファンドや団体年金ファンドについては、①のバランス型運用を行っている生保会社が多いと思います。
これは確定利付き資産をポートフォリオの中心としながらも、株式や外国資産等のリスク性資産を一定程度保有するという運用です。

これらの商品は負債のデュレーションが超長期であるため、キャッシュフローマッチングは困難です。
また、契約者からの期待に応えるためには、ある程度のリスク性資産を保有して、そこからの運用成果を配当として還元することが望まれます。
これらの負債特性を踏まえると、一般ファンドや団年ファンドにはバランス型運用が相応しいと考えられます。

ただし、「リスク性資産をどの程度まで保有できるか?」は各社のリスクバッファーの状況により違ってきます。
そのため、団体年金ファンドであっても、確定利付き資産がポートフォリオの殆どを占める会社もあるだろうと推測しています。

②のキャッシュフローマッチングは、一時払い養老のような貯蓄性商品に相応しい運用方法です。
ただし、キャッシュフローマッチングをしていた場合でも、金利上昇時に解約が増加すると債券の売却損が発生しますので、解約防止のための解約控除の仕組みを備えた商品が相応しくなります。
団体年金の解約控除と同じように、金利水準によって解約控除が変動するような貯蓄性商品には、キャッシュフローマッチングが最も適した運用方法になると考えます。

③のデュレーションマッチングは、キャッシュフローマッチングよりは緩やかなALMになります。
資産と負債のデュレーションを同水準に維持する方法で、負債側のキャッシュアウト等があった場合は、資産側のデュレーションを調整することで対応します。
例えば、財形のような「貯蓄性商品でありながらも、キャッシュフローが変動する可能性のある商品」がこの運用方法に相応しいと思われます。
また、団体年金ファンドでリスク性資産を保有しない場合も、デュレーションマッチング運用が適切だろうと考えます。