先日まで区分経理の仕組みを書いてきましたが、今日からは「区分経理導入により生保会社経営がどのように変わったか」を振り返ってみようと思います。
1996年の区分経理導入の直接的な効果で大きいのは、何といっても「団体年金一般勘定商品の予定利率引下げ」です。
下のグラフは生保一般勘定の予定利率の推移を示したものです(第一生命の例)。
団体年金向け生保一般勘定の予定利率推移(第一生命の例)
このグラフで分かるように、区分経理が導入された96年4月には予定利率を4.5%から2.5%に引下げています。
予定利率引下げを行うためには、事前に契約者の了解を取り付ける必要があります。
96年4月の引下げは4.5%から2.5%への2%幅の引下げであり、94年4月に実施した5.5%から4.5%への引下げ時よりも顧客折衝が難航しました。
また、個人保険の予定利率との関係も問題になります。
94年4月に生保一般勘定の予定利率を4.5%に下げた時の個人保険の予定利率は3.75%でした。
団体年金顧客からすれば「個人保険が3.75%まで下がっているのに対し、団体年金の引下げ後は4.5%」ということで納得性を得やすい関係でした。
しかし、96年4月の引下げの時は事情が違いました。
この時は、個人保険の予定利率も引き下げましたが、3.75%から2.75%への1%の引下げでした。
それに対して団体年金は4.5%から2.5%への2%の引下げですから、顧客の納得を得るのは容易ではありません(下図参照)。
個人保険と団体年金の予定利率の比較(93年度~2002年度)
結局、この時は顧客に対し「96年度から資産区分を実施するとともに、その結果を開示する」という旨の確認書を取り交わしました。
上のグラフで分かるように、96年度の区分経理導入までは団体年金の予定利率の方が個人保険を上回っていました。
しかし、区分経理導入後は個人保険の予定利率の方が高くなっています。
原理原則で考えると、死差益や費差益といった保険関係益が潤沢な個人保険の方が、団体年金よりもリスクをとった運用が可能になります。
また、運用利回りが予定利率を下回った場合でも、個人保険の場合は保険関係益で埋めることが可能です。
したがって、「個人保険の方が団体年金よりも予定利率が高いのは当然」と言えます。
区分経理導入により、やっと原理原則に則った予定利率設定が可能になったと言えるでしょう。
また、団体年金の予定利率引下げは、経営面へのプラスの効果も甚大です。
個人保険の予定利率引下げは、あくまで新契約だけが対象です。
保有契約の予定利率低下は緩やかにしか進みません。
それに対して団体年金の予定利率引下げは、保有契約全体が対象です。
団体年金の保有契約の規模にもよりますが、「区分経理導入が可能にした団体年金の予定利率引下げ」が生保会社の収支改善に大きな効果があったことは間違いありません。