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生保会社の区分経理⑪ ~ 会社勘定(その1)

1996年に導入された区分経理では、(広義・狭義の)自己資本を集約する勘定として「会社勘定」を設けることが義務付けられています。
この会社勘定という概念は、(すでに区分経理が導入されていた)米国生保で採用されていたものです。

米国生保では区分経理(segmentation)の際に一つの勘定としてcorporate account が設けられており、それを日本語に訳したものが「会社勘定」となります。
旧大蔵省の区分経理に関する事務連絡では、最終的に「全社区分」という用語が用いられましたが、意味が全然分かりませんね。
なぜ、そのような意味不明な用語になったのかは、よく知りません。

会社勘定という用語の方が、その意味をはっきりと表しています。
区分経理導入前も導入後も、私自身は一貫して会社勘定という用語を使っていました。

会社勘定を一つの資産区分として独立させる意義としては、まず以下の3点が挙げられます。

①会社勘定の投資政策の明確化
一般勘定の資産を区分経理することで、(個人保険と団体年金などの)商品種類間の資金特性に応じた資産運用が可能になります。
この場合、責任準備金に対応する資産と自己資本に対応する資産とでは、その資金特性が異なり、適切な投資方法や投資手段も異なると考えられます。
したがって、会社勘定を設定して、責任準備金対応資産と自己資本対応資産は区分することが望ましと言えます。

②非運用資産を保有する勘定
生保会社の資産の中には、契約者から預かっている責任準備金を財源とすることが相応しくない資産があります。
典型的なのが営業用不動産です。
このように、事業運営のためには保有することが必要ではあるけれども、投資資産のように直接に収益を生まない資産は、会社勘定に帰属させるのが適切だと言えます。

③関連会社等への投資を行う勘定
契約者から預かっている責任準備金は、安全かつ確実に資産運用を行うことが原則です。
したがって、関連会社等への投資財源を責任準備金で賄うことは、一般的には適切でないと考えられます。
このような場合には、会社勘定の資金を活用して投資を行うことになります。

また、区分経理導入のために設けられた旧大蔵省の研究会では、会社勘定の機能について、以下の4点が挙げられていました。

ⓐ共通資産・共通経費部分の管理
営業用不動産や大型コンピューター等の資産は、各商品勘定が共同で利用するものです。
したがって、これらの資産については会社勘定に帰属させ、減価償却費も会社勘定で負担することとします。
そのうえで、各ファンド(セグメント)から共通資産利用料を徴収することにより、コスト負担の透明化が図られます。
なお、本社総務部門等の経費(人件費を含む)についても、同様の考え方で会社勘定で負担し、各ファンド(セグメント)から利用料を徴収することが適切だと言えます。

ⓑ事業運営資金の提供
商品セグメントの新契約募集経費の一時的立替、商品セグメントを新設した場合の初期投資等を会社勘定で行うことにより、生命保険事業の円滑な運営に資することができます。

ⓒリスクへの対応
各ファンド(セグメント)だけでは担うことができないような巨大損失が発生した場合などには、会社勘定がその損失の一部または全部をカバーすることができます。
すなわち、会社勘定は各ファンド(セグメント)のリスクバッファーと位置付けられます。

ⓓ会社勘定を通じたファンド(セグメント)間の貸借等の明確化
ファンド(セグメント)間の取引(貸借、拠出および補填)は、ファンド(セグメント)間の内部補助を遮断するため、すべて会社勘定を通じて行います。