前回の記事でご説明した「有価証券における複数簿価の問題」とは、
①各有価証券の単価(簿価単価)は、各ファンドおよび財務会計それぞれで移動平均簿価を用いる。
②そのために、新規購入や売却により、各ファンドおよび財務会計の間で簿価単価が異なってくる。
③また、売却損益や簿価残高も異なってくる。
という問題でした。
この問題が発生する要因は、端的に言えば「簿価単価が複数存在(複数簿価)する」ことです。
ファンド間および財務会計で単価が複数存在するために発生します。
したがって、この問題を解決するには、「ファンド間および財務会計で同一の単価を用いて管理」すれば良いことになります。
「ファンド間および財務会計で同一の単価」とは、言うまでもなく「時価単価」ということになります。
つまり、区分経理ベースの損益や残高を、財務会計と整合性をとる形で管理するためには、時価ベースで管理すれば良いことになります。
有価証券における複数簿価の問題と時価ベースの管理(例)
上の例は前回の記事で採用したケースについて、時価ベースの残高と時価ベース損益を追加したものです。
最下段のピンクで示した部分に、時価べースの値を示しています。
なお、「売却損益+含み損益増減」は、時価ベースの損益になります。
この例では、
①時価残高が、Aファンド30,000、Bファンド30,000、財務会計60,000
②時価ベース損益が、Aファンド8,000、Bファンド0、財務会計8,000
③財務会計の簿価ベース損益が2,800
になっていることがわかります。
このように時価ベースでみれば、必ずファンド合計と財務会計は一致します。
決算時にはこの関係を利用して、大雑把に言えば以下の処理をします。
(St.1)各ファンドでの必要剰余から財務会計での簿価ベース必要売却益を計算する。ただし、当然ながら時価ベース損益の範囲内でしか売却益は計上できない。
(St.2)財務会計での必要売却益を達成するように有価証券を売却
(St.3)区分経理ベースの簿価ベースの売却益を各ファンドの必要剰余に基づき計上。簿価残高も修正する。
団体年金一般勘定の配当還元ルールをみると、ほとんどの会社は「時価変動部分の還元部分(公社債以外の含み損益増減を含む)」があります。
このような仕組みとしている理由は、ここまでご説明したように、区分経理の剰余は簿価ベースだけでは管理できないからです。
「簿価ベース損益に含み損益増減を加えた時価ベース損益を基にして、その一部を配当財源として実現する」という考え方を採用していることになります。
なお、中には「簿価ベース損益だけを配当還元対象」としている大手生保もあります。
しかし、ここまで説明した複数簿価の問題を前提にすると、「区分経理ベースの簿価ベース損益とは、いったい何のことを意味するのか?」と疑問になりますね。
もっとクリアーな説明を顧客にすることが望まれます。