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生保会社の区分経理① ~ 区分経理を取り上げる理由

今日から何回かに分けて、生保会社の区分経理に関する記事を書こうと考えています。

内容としては、単に区分経理の概念や概要を説明するだけではなく、キャッシュフローの管理、取引の会計処理方法(財務会計と区分経理の両方の取引入力が必要)、資産の管理方法や複数簿価の問題、会社勘定の機能、財務会計と区分経理の関係など、極めて実務的な内容についても書いてみたいと考えています。

区分経理を取り上げようと考えた理由は、端的に言えば「区分経理に関する公開情報があまりに少ない」からです。
例えば、団体年金一般勘定商品については、生保会社が決算報告や上期報告として、顧客に「団体年金に関する区分経理情報」を開示しています。

しかし、実際に顧客に開示されている情報は限定的です。
生保会社の団体年金区分に関する報告書を見ても、例えば以下のような点は不明です。

●団体年金事業にどの程度のコスト(人件費や物件費など)がかかっているか?
●法人税の負担は団体年金区分でどの程度行っているか?
●株式会社の場合、株主配当の負担を団体年金区分でどの程度行っているか?
●団体年金区分のインカム利回りと配当率の差の部分、言い換えれば契約者に還元されない収益はどのように処理されているのか?
●団体年金区分のリスクバッファーはどの程度か? どのような勘定にいくらのバッファーが積み立てられているか?

また、顧客向けの情報開示だけではなく、生保会社内でも区分経理に関する十分な情報開示は行われていません。
そのため経理部門や主計部門などの一部の人しか、区分経理に関する情報は把握できていません。

また、そもそも区分経理がどのような仕組みで運営されているかについても、一部の人しか知らされていません。
アクチュアリーや年金数理人であっても、実際の区分経理がどのようなものかをよく知らない人が、たくさんいます。
市販の書籍やアクチュアリー会のHP等にも、区分経理の仕組みを学べる情報は見当たりません。

このような現状を少しでも改善するために、区分経理に関する情報発信をしてみようと考えた次第です。

区分経理が生保会社に対して実質的に義務付けられたのは、1996年(平成8年)4月の保険業法改正時からです。
それ以前は区分経理は行っておらず、個人保険も団体年金も含めた一般勘定合計で資産運用を行っていました(当時は「巨大などんぶり勘定」と言われていました)。

そのため区分経理導入以前は、個人保険と団体年金の運用利回りに差をつけることはできません(同じ資産運用を行っているので、運用利回りも同じになります)。
「予定利率+利差配当率」は、個人保険も団体年金も同じ水準を維持していました。

しかし、原理原則を踏まえて考えると、収益性の高い個人保険と、収益性の低い団体年金では資金特性がまったく違います。
潤沢な死差益がある個人保険の場合は、それをバッファーとしてリスクをとった資産運用が可能です。
しかし、そのようなバッファ―のない団体年金の場合は、資産運用でとれるリスクは限定的です。
このような商品ごとの資金特性を踏まえた資産運用(ALM運用)は、区分経理が始まった1996年の前までは不可能だった訳です。

前回の記事にも書きましたが、私は生保会社の企画部門で保険業法改正対応を担当していました(1993年から業法改正までの期間です)。
特に、区分経理の導入に関しては社内プロジェクトの実質的リーダーを務めました。

また、1996年に区分経理が開始してからは、収益管理部門で区分経理運営を担当しました。
そのため当時に在籍していた生保会社内では、区分経理のことを誰よりも詳しく理解していたと自負しています。

次回からは、当時の記録や記憶を思い起こして、
●区分経理とはいったい何なのか?
●実務的にはどのように運営しているのか?
●区分ごとのキャッシュフローの管理はどのように行っているのか?
●区分経理システムと財務会計システムの関係は?
●事業費等のコストの各区分への配賦はどのように行っているのか?
●財務会計と管理会計の複数簿価の問題とは何か? それをどのように処理しているのか?
●リーマンショック時のような巨額の損失がある区分で発生した場合、決算処理をどのように行うのか?
●区分経理の決算と財務会計決算の関係
●区分経理の決算と配当率の関係
などについて、書いてみたいと思います。