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暗号資産に関わる根本的な矛盾 ~ クルーグマンの批判②

ポール・クルーグマンは、先週のNY TIMESにも暗号資産に関するコラムを書いていました。
”Is This the End Game for Crypto?”というの刺激的なタイトルで、暗号資産業界に関する根本的な矛盾を指摘しています。
参考になると思いますので、概略をご紹介してみます。

このコラムでは前回ご紹介したような「暗号資産(仮想通貨)はなぜ価値があるのか?」という議論はしていません。
彼が問題にしているのは、「そもそもの暗号資産というアイデアの根本にある考え方と、現実の暗号資産産業は矛盾しているのではないか?」という点です。

このコラムでクルーグマンは以下の問いかけをしています。

The question we should ask is why institutions like FTX or Terra, the so-called stablecoin issuer that collapsed in May, were created in the first place.

私たちが問うべきは、FTXや5月に破綻したいわゆるステーブルコインの発行元であるTerraのような機関が、そもそもなぜ作られたのか、ということだ。

After all, the 2008 white paper that started the cryptocurrency movement, published under the pseudonym Satoshi Nakamoto, was titled “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System.” That is, the whole idea was that electronic tokens whose validity was established with techniques borrowed from cryptography would make it possible for people to bypass financial institutions. If you wanted to transfer funds to someone else, you could simply send them a number — a key — with no need to trust Citigroup or Santander to record the transaction.

結局のところ、暗号通貨の発端となった、サトシ・ナカモトというペンネームで発表された2008年のホワイトペーパーの題名は “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System” だったのだ。
つまり、このペーパーを貫く思想は、「暗号技術を応用して有効性が確立された電子トークンがあれば、金融機関を介さない取引が可能になる」というものだった。
誰かに資金を送金したい場合、取引を記録するためにシティグループやサンタンデールを信用する必要はなく、番号(キー)を送るだけでよいことになる。

私もサトシ・ナカモトが書いたホワイトペーパーを検索してみましたが、確かに概要の冒頭部分で述べられています。
なお、このペーパーは、英語のオリジナ版だけでなく日本語に翻訳したものも公開されています。
冒頭部分を引用してみます。

A purely peer-to-peer version of electronic cash would allow online payments to be sent directly from one party to another without going through a financial institution.

完全な P2P 電子通貨の実現により、金融機関の介在無しに、利用者同士の直接的なオンライン決済が可能となるだろう。

クルーグマンもこのオリジナルのアイデアについては、”the idea of a monetary system that wouldn’t require trust in financial institutions was interesting, and arguably worth trying”と評価しています。

しかしオリジナルペーパーが発表されてから14年が経過しましたが、サトシ・ナカモトのアイデアは実現していません

その理由は、”They’re too awkward to use for ordinary transactions. Their values are too unstable.”(通常の取引に使うには、あまりにも不便である。価値が不安定すぎる。)、ということです。

その代わりにできたのが、暗号資産を扱う業者です。交換所や取引所などですね。
しかし、それらの機関の存在自体が、オリジナルアイデアと矛盾するのは明らかですね。

These exchanges are — wait for it — financial institutions, whose ability to attract investors depends on — wait for it again — those investors’ trust. In other words, the crypto ecosystem has basically evolved into exactly what it was supposed to replace: a system of financial intermediaries whose ability to operate depends on their perceived trustworthiness.

これらの取引所は、金融機関であり、投資家を惹きつける能力は、投資家の信頼に依存している。
言い換えれば、暗号資産に関わるシステムは基本的に、暗号資産が置き換えるはずだったもの、つまり金融仲介者のシステムへと進化し、その能力は、認知された信頼性によって左右される。

このコラムでのクルーグマンの指摘は鋭いですね。
サトシ・ナカモトの元々のアイデアに矛盾した形で拡大してきた暗号資産業界は、今回のFTXの破綻などを教訓にして、政府による規制が強まると予想されます、
サトシ・ナカモトの元々の構想とは、まったく違った形になると思われます。

ボラティリティが極端に大きい暗号資産に投資している人たちの大部分は、投機的目的によるものだと思われます。
政府による規制が強まれば、投機対象としての暗号資産の魅力は大幅に減じることは確実です。