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コラム

アクチュアリーの7つの欠点

先日、自宅の本や雑誌を整理していたら「アクチュアリージャーナルの創刊号」が出てきました。
1990年9月発行ですから、もう30年以上も前のものです。
創刊号では、当時の保険審議会での「保険計理に関する議論」を特集しています。

創刊号が発行されてからしばらくして、私は生保会社の企画部門に異動になり、保険業法改正を担当することになりました。
区分経理の導入やソルベンシーマージン規制の導入などへの対応です。
特に、区分経理の導入に関しては、社内プロジェクトの実質的リーダーを務めました。
その仕事の参考にするために、この創刊号だけは捨てずにおいたものです。

創刊号には当時の大蔵省保険第一課課長補佐の講演記録が掲載されています。
当時の保険経理の問題点を的確に指摘していて、非常に参考になる内容です。
私は企画部門での仕事をする際に、この講演記録を何度も読み返しました。

それはさておき、この講演の最後で、課長補佐は「アクチュアリーの7つの欠点」という話をしています。
当時のアクチュアリーがどんな風だったか分かりますし、今でも当てはまる部分があると思いますので、ここでご紹介してみましょう。

【アクチュアリーの欠点①】仲間意識が強い
社内他部門との交流よりも社外のアクチュアリーとの情報交換の方が頻繁である。
アクチュアリーは主計部にばかり集まらないで、営業部門や運用部門でも活躍すべきである。

【アクチュアリーの欠点②】保守的である
(純保式責任準備金などの)過去の仕組みに固執しがちである。
環境変化への対応も必要ではないか。

【アクチュアリーの欠点③】説明が下手
保険会社内でのアクチュアリーは「いつも難しいことを言う」という評判。
例えば、「(アクチュアリーは)調査部の人をばか扱いする」と言われている。
社内認知度を上げるには、「相手のレベルに応じた説明や、易しく話す」ことも必要ではないか。

【アクチュアリーの欠点④】消極的
例えば、ディスクロージャーに消極的である。
もっと積極的なディスクロージャーが必要ではないか。

【アクチュアリーの欠点⑤】勇気がない
例えば、「企業年金の配当が高い」と思うなら社長に進言すべきだ。
株の含み益や死差益を(商品間で)公平に還元するように、社長に進言すべき、あるいは自分で決めるべきである。

【アクチュアリーの欠点⑥】勉強不足である
例えば純保式責準などの、従来の枠組みの中で思考が停止している。
資産運用のリスク管理やサープラスの必要性などについても、理解しようとしない。
大きな変化の時期であるから、サイレントではなくもっと発言すべきである。

【アクチュアリーの欠点⑦】人の意見をあまり聞かない。

いかがですか。
当時の生保会社主計部の人というのは、確かにこんな感じでしたね。

今は、その当時よりは、かなり良くなっているように思います。
主計や年金数理などの伝統的アクチュアリー部門以外で活躍するアクチュアリーも、ずいぶん増えました。
また、新ソルベンシー規制などを始めとした、新しい枠組みが導入されていますので、アクチュアリーの人たちも勉強不足ではいられないと思います。

最後に、私が考えるアクチュアリーの大きな欠点を、一つ追加してみようと思います。
それは「どうでもよいような小さなことにこだわる」という点です。

物事には大事と小事があります。
アルベール・カミュは「大事には主義主張を貫け。小事には寛容でこと足りる」と言っています(「裏と表」の序文)。
カミュの言うことは全く正しくて、「どうでも良いような小さなことにはこだわらずに、寛容の精神で許容する」ことは、上手に生きるためのコツです。
上手に仕事を進めるうえでも、大事な心構えです。

しかし、往々にしてアクチュアリーの人の中には「どうでも良いような小さなことに、極端にこだわる」人がいます。
私もこれまで何度も、そういうアクチュアリーや数理人に会ってきました。
こういう人には本当に往生します。

数学であればもちろん、小さな論理であってもゆるがせにできませんが、実社会やビジネスは違います。
アクチュアリーの人たちやこれからアクチュアリーを目指す人には、「大事には主義主張を貫け。小事には寛容でこと足りる」というカミュの言葉を意識して欲しいと思います。