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コラム

日本の将来推計人口③ ~ 出生低位仮定の推計結果

前回書いたように、4月に公表された将来推計人口の中位仮定のシナリオは、「出生率の見込みが楽観的過ぎる」と私は考えています。
そこで、今回は出生率が低位仮定の推計結果を確認してみます(なお、出生率以外の死亡率等の仮定は中位を用います)。

低位仮定の長期的な出生率は1.13(中位仮定は1.36)と設定されています。
また、その前提となる50歳時点未婚率は「1970 年出生コーホートの15.0%から2005 年出生コーホートの25.6%まで上昇し以後は変わらない」と仮定されています
(中位仮定では19.1%まで上昇するというものでした)。

50歳時の未婚割合の推移

(出所)内閣府 「令和4年版少子化社会対策白書」

上のグラフでみても、50歳時未婚率は過去20年ほどで大幅に上昇しています。
また、「第16回出生動向調査」(国立社会保障・人口問題研究所)における「女性の予想ライフコース」では、非婚就業コースが33%を占めています。
つまり、18~34歳の独身女性の33%の方が、「自分は今後も結婚せずに仕事を続けるだろう」と予想している訳です。

これらの情報を踏まえると、低位仮定の50歳時未婚率25.6%という仮定が高すぎるという感じはしませんね。

では、出生低位仮定(死亡は中位仮定)の結果を見てみましょう。

総人口および年齢群団別内訳(出生低位、死亡中位仮定)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所HP等より作成

上のグラフは今回推計(出生低位仮定)に基づいて総人口および年齢群団別内訳の推移を見たものです。
このグラフからは、中位推計結果よりも一段と厳しい未来が待っていることが分かります。

①総人口が1億2000万人を下回るのは2029年と出生中位よりも2年早まる。
また、2052年には1億人を下回り(出生中位よりも4年早い)、50年後の2070年時点では8,024万人と現在の約63%まで縮小する。

②50年後の生産年齢人口(15~64歳)は4,087万人と現在の54%まで減少する。ピークだった1995年と比較すると、約45%まで減少することになる。

③15 歳未満の人口は2070年では約57万人まで減少する。現在の約3分の1である。

④65歳以上の人口は、出生中位と変わらない(出生数の変化は50年先の65歳以上人口には影響しない)。

なお、参考推計として公表されている100年後の人口を確認すると、出生低位推計で3,586万人まで減少します。
現在の1億2000万から100年間で3,500万人と4分の1近くまで減少する訳ですから、去年5月のイーロン・マスクの警告をなぞるような推計結果ですね(下の英文を参照してください)。

“At the risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world.”

総人口における年齢群団別占率(出生低位、死亡中位仮定)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所HP等より作成

このグラフは出生低位の場合の年齢群団別の人口占率を見たものです。

①出生中位の高齢化率は50年後の2070年で38.7%であるのに対し、出生低位では42%まで上昇する。

②75歳以上の後期高齢者の占率は、50年後には27.2%まで上昇する。

③15歳未満の人口占率が10%を割り込む時期は、出生中位では2050年であるのに対し、出生低位では2029年まで早まる。2070年には、15歳未満の人口占率が7.1%まで減少する。

最後に、出生低位の場合の出生数と死亡数を確認します。

出生数と死亡数の推移(出生低位、死亡中位仮定)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所HP等より作成

①50年後の2070年の出生数は出生中位仮定では50万人であるのに対し、出生低位仮定では約35万人まで落ち込む。
2021年の出生数が80万人を割り込む見込みであることが大きなニュースとなっているが、その半分以下の水準である。

②一方で死亡数は、出生中位の場合はほとんど変わらない。

このままでは、イーロンマスクの警告が実現しかねません。
それを防ぐためには、何としても「結婚する人が増える」ことが必要です。