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コラム

生保営業職員による金銭詐取問題②

営業職員による巨額金銭詐欺事件が2020年に発覚した後で、第一生命は報告書を公表しています。
その内容は、事案の概要、事案発生の分析、再発防止策などです。
今回は「この事案がなぜ発生したのか」について、考えてみたいと思います。

第一生命の報告書では、事案の発生要因を下表のように分析しています。

(出所)第一生命による報告書(「「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告」)

上の表をみると「社内のルール、仕組み」に属するものと、「会社の体質、風土」「行為者の意識」に関するものに分かれています。

例えば、「お客さまとの間での金銭授受を一律禁止するルールの不足」や「実体的に、日常的な活動状況の確認や指導を行う管理者の不在」などは、社内のルールや仕組みに関するものです。

それに対して、「元社員における道徳心、倫理観および法令遵守意識の欠如」・「元社員における特権意識を背景とした自己の不正行為の正当化」「関係部門における穏便に収めたいという意識の存在」などは、ルールや仕組みの問題ではありません。
個人の意識・価値観や会社の体質・風土に関連するものです。

社内のルールや仕組みの不備が原因であれば、対策は考えやすいですね。
ルールや仕組みを整えれば良いということになります。

しかし、「個人の意識・価値観」や「会社の体質・風土」に関連する問題は対策が難しいですね。
営業職員や内勤職員の意識を変えるような根本的な取り組みが必要だと思われます。

また、そのためには、「なぜそのような意識・価値観や体質・風土が生じたのか?」を分析することが必要です。
例えば、報告書では、行為者である営業職員の特別扱いについて、以下のように説明しています。

西日本マーケット統括部においては、元社員に関する事項について、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識がありました。そのような意識が生じた背景には、元社員が「特別調査役」として特別な地位にあり、しばしば当社の役員等との親密さを吹聴していた元社員への遠慮が存在していたと考えております。

このような事象への対策を考えるためには、「なぜ、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識が生じるのか」、あるいは「なぜ、元社員への遠慮が存在するのか」の分析が必要だと思います。

しかし、残念ながら第一生命あるいは、の報告書では、そこまでの深い分析は行われていません。
対策は仕組みの見直し(下表参照)だけであって、根本的な原因には立ち入っていませんね。

優績者の特権意識が醸成されないための環境整備(第一生命報告書より)

(出所)第一生命による報告書(「「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告」)

根本的な分析が行われていない以上、対策も不十分だというのが私の意見です。
実際、第一生命ではこの事案が発生した後も、営業職員による金銭詐取事案が発生しています。
また、他生保でも類似の事案が発生しています(下表)。

結局、生保会社のビジネスモデルに共通の原因があると思われます。
次回はその点を考えてみます。

2020年以降の生保会社における金銭詐取事案(報道もしくは公表されたもの)

(出所)各社の公表資料および報道記事より作成