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生保営業職員による金銭詐取問題①

2月17日に生保協会から「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」と題したレポ―トが公表されています。

これは、2020年に発覚した第一生命営業職員による巨額金銭詐欺事件が契機となって作成されたもので、「各社が営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化を図るにあたっての考え方に関する原理・原則や取組例等を、着眼点としてまとめたもの」とされています。

私は2020年の第一生命事案発生時から、この問題を注目していました。
第一生命が私の古巣ということもありますが、「伝統的生保会社の最大の経営資源かつ問題点である営業職員チャネルがこの問題を受けてどのように変わるか」に強く関心を持っていたからです。

しかし、生保協会のレポートにざっと目を通したところでは、その内容のほとんどは、すでに生保会社が(形式的には)取り組んでいる事項だと思われます。
経営管理のための常識的・基本的な内容が記述されていて、目新しさはほとんどありません。
生保営業職員チャネルの本質的な問題点には切り込めていない、残念な内容だというのが私の感想です。

そこで、「なぜ、私がそのように考えるか?」を、このコラムで何回かに分けて述べてみたいと思います。
まず、今回は第一生命営業職員による金銭詐取事案の概要を振り返ってみます。

第一生命における「元「特別調査役」(山口県)事案」の概要

(出所)第一生命による報告書(「「元社員による金銭の不正取得」事案に関するご報告」)等より作成

上の枠内に第一生命事案の概要をまとめました。
生保会社の人間にとっては違和感がなくても、世間一般から見れば驚くような内容です。

例えば、行為者である営業職員の年齢は89歳、勤続は55年です。
89歳で特別調査役の肩書を持って営業活動をしていたわけですね。
しかも特別調査役は第一生命社内でもこの行為者だけだったということです。

一般の企業で「89歳で社内でも最高の役職についている人」というのは、きわめて限られているはずです。
創業者がそのまま会長を続けているようなケースに限られるのではないでしょうか。
むしろ一般企業であれば「高齢者を高い役職に就けることの弊害」を意識するはずです。

実際、この事件発覚後、検察庁は行為者を起訴猶予処分としていますが、その理由は「認知症が進んでいた」ということです。
すなわち、第一生命は、認知症が進んだ89歳の営業職員を「社内でただ一人の特別調査役」として処遇していたことになります。

普通の感覚では信じられないと思います。
しかし、私も含めて伝統的生保会社に在籍していた人間から見れば「今の営業職員制度であれば、そういうことも起こりうるだろうな」という感想を持ってしまいます。

また、被害者数が24名で被害額が19億5000万円ですから、一人あたり約8,000万円の被害額となります。
なぜ、ここまでこの営業職員は顧客の信頼を得たのでしょうか?

それは「社内でもただ一人しかいない特別調査役」という肩書にあったと思われます。
一般の人からみれば「第一生命でも一人しかいない特別な肩書の人」ということになりますから、上の枠に記載してる「金銭詐取の手口・話法」が通じたというわけです。
会社の責任は極めて重いと感じるのが普通の感覚だと思います。

第一生命はこの事件について報告書をまとめ、原因分析を行っています。
次回はその内容を確認してみたいと考えています。